短い話は勢いで書けても、長い物語になると、途中で道に迷う人が多いようです。私もかつて、書いているうちに、これまで何を書いたか、これから何を書くのか、わからなくなったことがありました。そこで試してよかったのが、物語の「地図」を先に描いておく方法です。ここでは、その考え方と、地図を使った書き進め方をまとめます。
地図は細かくなくていい
地図といっても、詳細なプロットではありません。大事なのは、次の三つの点を、ざっくり決めておくことです。
- 物語の出発点(主人公が今、どういう状況か)
- 物語の中ほどにある転機(何かが大きく変わる出来事)
- たどり着く場所(結末の方向性)
これだけで、途中の道筋が自然に見えてきます。細かい出来事は、書きながら決めて構いません。
場面を一行ずつ書き出す
次に、思いつく場面を、一行ずつ書き出します。「喧嘩して別れる」「手紙を見つける」のような短いもので十分です。順番はあとで入れ替えられるので、気にしません。付箋に書いて並べ替えると、全体のバランスが見えます。
空白を残しておく
地図の中に、わざと何も決めていない空白を残します。書き進めるうちに、登場人物が勝手に動き出して、予想しなかった展開になることがあります。その余白があるから、書く楽しさも続きます。
一章ごとに、地図に戻る
一つの章を書き終えたら、地図を見直します。書いたことで、予定と変わった部分を書き直します。この作業を挟むと、「いま自分はどこにいるのか」がわかります。
読み返して、地図を更新する週のルール
週に一度、書いた分を最初から軽く読み返します。細かい直しはしないで、「どこで迷ったか」「どこが退屈だったか」だけを探します。気づいたことを地図の余白に書き込むと、次の章で直す方向が定まります。
書けない場面は飛ばして先へ
どうしても書けない場面があれば、一旦飛ばして、書ける場面から先に進めます。あとで戻ると、前後が書けているぶん、つなぎ方が自然に見えてきます。順番通りに書かなければならない、という思い込みを外すことが、長編を続ける助けになります。
人物ごとの小さな地図を作る
物語全体の地図とは別に、登場人物それぞれの小さな地図を作ると、動機がぶれなくなります。「何を望んでいるか」「何を恐れているか」「物語の途中でどう変わるか」を、一人につき数行で書き出します。人物が変化する節目が見えると、場面を配置する根拠にもなります。
時系列の整理表を別に持つ
長い物語では、日付や季節、年齢の食い違いが起きやすくなります。章ごとに「いつ」「どこで」を簡単な表にしておくと、後から矛盾に気づけます。書き終えてから探すより、書きながら記録するほうがずっと楽です。
書いた量より、続けた日数を数える
長編は、一日に書ける量が少なくても、毎日触れれば進みます。一日に数百字でも、一年で原稿用紙数百枚分になります。目標の字数ではなく、続けた日数を記録すると、挫折しにくくなります。
途中で設定を変えたくなったら
書いている途中で、最初の設定を変えたくなることがあります。そのときは、どこまで遡って直すかを書き出して判断します。小さな食い違いは最後にまとめて直し、大きな変更は地図の側を先に更新します。
進まない日は、地図だけ触る
書けない日があっても、地図を眺めるだけで気持ちが整います。地図に一行足す、並べ替える。文章が一行も書けなくても、物語は前に進んでいます。
終わりが見えてきたら
結末が近づくと、最初に決めた到着点と、実際に書いている方向がずれていることに気づきます。そのずれは、失敗ではなく、物語が育った証拠です。最初の地図を捨てて、新しい到着点を描き直しても構いません。
長い物語は、一気に書こうとすると疲れます。地図を持ち、一章ずつ進めるくらいの気持ちが、最後まで続けるコツです。書き終えたときに振り返ると、描いた地図が自分の足跡になっています。